ノヴァスコシア全国講演会感想エントランスへ

ノバスコシア環境政策全国縦断講演会レポート


斉藤真実
環境総合研究所研究員
環境行政改革フォーラム正会員


 2006年10月6日〜14日、カナダのノバスコシア州(以下NS州とする)廃棄物政策についての日本全国縦断講演会(ごみ弁連主催)が開催された。

 講演者は、ボブ・ケニー氏とレイ・ハルセイ氏であり、お二方とも廃棄物政策に深く関わる政策マンである。

 環境総合研究所ではこれまでNS州の脱焼却・脱埋立を掲げた廃棄物政策についての詳細な研究を行ってきた。青山所長・池田副所長は何度も現地へ足を運び、州政府との議論・視察を重ね、常に最新の情報を入手してきている。

 過去2回(2003年と2005年)行われたNS州スタディツアーや講演会、各種刊行物への寄稿などを通してNS州の政策を日本に紹介する活動を続けてきた。

 そのなかで、ごみ弁連主催による今回の日本全国縦断講演会は今までにない試みであり、スタディツアーに参加出来ない人々や、過去の講演会に足を運べなかった方々にも広くNS方式を紹介することの出来る画期的な企画であった。

 事務局の一人として、全国講演会のなかの、ごみ弁連専門家会議、武蔵工業大学講演会、カナダ大使館講演会の3つの講演会しかサポートできなかったが、以下に感想を交えたご報告をしたい。

<ごみ弁連の専門家会議 10月10日>

 主催であるごみ弁連に所属する弁護士を対象とした講演会である。出席者は8名、弁護士のほか、ゼロウェイスト宣言を行った徳島県上勝町からも1名参加して下さった。こじんまりとした会場で、講演者が一方的に話す講演会というよりも、講演者を交えたディスカッションの色合いが濃かった。全国各地の会場が超満員の状態であるなかで、このような少人数でのディスカッションの機会は貴重であった。

 一通り講演者のプレゼンが終了した後、ディスカッションへ。最も熱のこもった話題としては、談合・入札制度・利権の問題であった。本来ならば、合理性・経済性・機能性を担保するはずの入札制度が日本では全くの機能不全であり、不正がまかり通っていることや行政と企業の癒着・産業廃棄物をとりまく利権等々、日本特有とも言うべき廃棄物問題の根底を深くえぐり、俎上にのせたことは我々にとってだけではなく、講演者にとっても勉強になったことと思う。

 NS州では行政が住民と協力して共に政策を練り上げてきた。行政の立ち位置は常に住民の側に立っている。更にNS州では金額だけの入札制度ではなく、必ず実行プランも込みで入札を行うので、いわゆる鉛筆なめなめということは一切ないとのことである。

 講演者お二方にとっては、なぜ日本がこれ程までに廃棄物問題を抱えているのか?との疑問があるのではないだろうか。行政と住民さえやる気になれば問題を改善していくのは容易ではないかと思っていらっしゃるのではないだろうか?そのような彼らにとって日本がこれ程までに焼却処理に依存する真の理由を理解していただくことは有意義なことであると感じた。

 その真の理由とは、もちろん埋立処分場の延命措置という言い訳じみた理由ではなく、焼却処理をすることによる政官業の利権が甚大であることである。他の会場では「私たちは何をしたらよいのでしょうか」という素朴な疑問が出たと伺っている。そのような質問に対して彼らがアドバイスを下さるうえでも、日本の状況を理解してくださる良い機会になったことは喜ばしい。

 蛇足であるが、ひとつ象徴的だと思ったことに、「利権」の英訳を辞書で調べてもすっぽりあてはまる言葉が見つからなかったのである。「利権」の日本特有なニュアンスは英語圏では一単語で容易に表現出来うるものではないことを切実に感じた。

<武蔵工業大学横浜キャンパス講演会 10月12日>

 環境総合研究所所長でもある青山教授が教鞭を執られる「公共政策論」は、受講者数450名の超マンモス講義である。一教室には学生が入りきらず、毎回二教室をモニターでつなぎ講義を行っている。その公共政策論では2週にわたりNS州の廃棄物政策をとりあげた。一つは本講演会と、もう一つはその前の週に「予習」として主だった政策内容の講義を行ったとのことである。講演会では門戸を開き、学外からの参加者も受け入れた。当日配布のレジュメ(A3裏表×2枚)は計1000部にも及び、自ら用意された青山教授のご尽力は並々ならぬものであった。

 メインの会場では、後ろに補助椅子を置くほどの超満員であり、かなりの熱気に包まれた。講演者のお二方及び通訳の池田副所長はハンカチ片手に汗だくでプレゼンを行っていらっしゃった。

 プレゼン終了後、質疑応答へ。学生からの質問でこのようなものがあった。最終処分場選定のための話し合いに何百人もの住民が詰めかけたことに対し、「その話し合いをどのような手段で告知したのか?その頻度はどれくらいか?」 告知は新聞等でされたとのことであった。しかしそれ程までに住民が詰めかけた理由としては、告知方法が優れていたわけでも何でもなく、住民の重大関心事項であったため、意見を一言言うために調べてでも参加した状態であったとのことである。また、頻度も大体月1回程度であったとのことだが、それも定例会議のような硬直したものではなく、議題があれば頻繁に行うといった状況であったとのことである。日本の行政主体で行われる定例会議とは、会議のあり方も熱意も全く異なるものであったことが対照的であった。

<カナダ大使館講演会 10月12日>

 武蔵工業大学講演会と同日、夜からカナダ大使館で講演会が開催された。 参加人数が厳格に制限されていた会場であったため、満席でお断りさせて頂いた方には申し訳なかった。

 参加者は約60名であった。カナダ大使館からは開放感のあるきれいな会場を提供して頂き、冒頭では商務部参事官のベノア氏が挨拶をして下さった。大使館としてもNS州の廃棄物政策に大変関心をお持ちで、今後とも交流を深めていきたいとの姿勢を見せてくださった。

 お二方の講演に先駆けて、青山所長がNS方式の神髄をまとめたミニ・プレゼンを行った。講演者はNS州の立場で自分たちの政策を話すが、日本の立場からのNS政策の見どころ・エッセンスを簡潔にまとめて下さったので、参加者の方々は両方の見方でもって、より理解が深まったことだろう。

 プレゼンの間にコーヒーブレイクをはさんだ。ブレイク中はあちこちで参加者同士、あるいは講演者と参加者の間で活発な議論が行われていた様子であった。 プレゼン終了後、質疑応答へ。ごみ弁連専門家会議や大学とは異なり、より広い分野からの参加者であったため、質問も様々であった。講演者は一つ一つの質問に丁寧に答えてくださったうえ、時間が厳格に限られていたため、数名の方からしか質問を受け付けられなかったのが残念である。しかし、満足そうな顔でお帰りになった参加者の方々を見て、本当にこの企画が実現したこと、サポートできたことを心から嬉しく思った。

 以上、全国講演会の中でサポートさせて頂いた3会場のご報告である。

 ボブさん、レイさんは、慣れない日本でのタイトなスケジュールは体力的にも精神的にも負担が大きかったことと思うが、積極的・精力的に明るく取り組んでくださったことに心より感謝を申し上げたい。

 また、ごみ弁連弁護士の方々と共に総指揮をとられた青山所長、全会場を通訳でまわった池田副所長も大変お疲れ様でございました。 各会場でサポートしてくださった方々にも、御礼を申し上げます。

 ありがとうございました。