ノヴァスコシア全国講演会感想エントランスへ

ノバスコシア方式を可能とする
専門家の社会的役割

〜なぜ、ノバスコシアか〜

青山貞一

武藏工業大学環境情報学部教授
環境総合研究所所長、ゴミ弁連技術顧問
環境行政改革フォーラム代表幹事


カナダ・米国で学んだ専門家の社会的役割
〜環境アドボカシー〜


 ここ3年、青山、池田によるノヴァスコシア関連の講演は、全国で100回以上しています。その講演でとくに強調していることがあります。

 それは、ノバスコシア州から現在オンタリオ州のナイアガラ地域に異動されたバリーさん、今回来日された2名の存在そのものに共通したことです。


カナダ大使館で、右は池田こみちさん






今回のカナダ大使館ノバ講演会

 具体的に言えば、それはゴミ問題についての住民団体の強烈なミッション、パッション、アクションの存在に加え、それを支える専門家の存在です。

 それも継続的、持続的な支援です。

 今回、2番目に講演されたレイさんは、地元では誰でも知っているコンサルタントです。カナダ大使館の講演会では、ノバスコシア州ハリファックス市にある大学に留学していた女性からメールがきました。レイさんが講師ということで、さすがと思ったそうです。

 ところで、カナダではコンサルタント、NPO、大学などにいる人材が、連邦、州、市町村の行政機関の重要ポストのスタッフとして、ある理念、政策を実現するた登用されることがあります。しかも単なるスタッフを超え、実力を発揮できる素地が昔からあります。

 おそらくこの問題抜きに、今回の講演のエッセンスは理解できないと思います。すなわち日本のような御用コンサルや御用学者ではない、信頼される人材の存在だと思います。

 今回の講演で話された事例は、住民の強い意思、住民運動の力だけで説明できる問題ではありません。彼らのような、ミッションと正義感、政策立案能力、技術的能力、法制度立案実行能力、交渉・プレゼン能力などをかね備えた、しかも実務にたけた専門家による「アドボカシー」があって、はじめてあのようなことが実現していると思えます。

 私は35年以上前からカナダ、米国などの現場で、その「アドボカシー」を現場でつぶさに見てきました。単に見ただけでなく、当事者と議論、研究しました。ロサンゼルスのリトル東京では、地元住民団体と一日かけ議論しました。

 その後、私は日本で類似のこと、すなわち「アドボカシー」を実践することを決意しましたた。30年以上も前のことです。

 私が長野県に特別職で3年間、知事の政策顧問としてがんばったのも上記と無縁ではありません。

 日本では大変残念なことですが、圧倒的に多くの人材が行政や事業者側にいわば永久就職しています。もちろん、それらの人材の多くは単なる高学歴であるだけで、ミッション、パッション、アクション、正義感、政策立案能力、技術的能力があるとは思えませんが。

 本題に戻って、専門家や研究者が御用学者化している日本では、なかなかノバスコシア州、ハリファックス市のようなことは難しいと思います。 もちろん一部の例外はあります。

 ※青山貞一:環境オンブズマンと環境アドボカシーの提唱と実践 http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col5444.html

 今回、はからずもゴミ弁連がスポンサーとなり、環境総合研究所が事務局となって、全国縦断「環境政策」講演会を私たちが企画、実行した背景には、この間、地域住民団体を法律面(ゴミ弁連)、政策、技術面(環境総研)で支援してきた私たちのそのような強い思いがあります。すなわち、真摯に地域でがんばっている、しかも丸腰でがんばっている住民団体を体を張ってでも支援したいと言う強い思いです。これらはゴミ弁連の弁護士、環境総合研究所スタッフに共通の思いだと思います。

 カナダ大使館会議終了後、弁護士や大学教授らと食事をしながら議論しました。そこでの議論として、今の日本社会で一番大切なことは、さまざまな意味で官僚組織や大規模事業者と互角に議論、対峙できる、ゴタクではなく具体的な内容で勝負できる本来の意味で有能な人材を育成、確保することであるということでした。

 私たち環境総合研究所は過去、国、自治体からの立法、政策研究、調査以外に、何100と言う住民団体からの依頼でさまざまな支援、サポートをしてきましたが、私は常々、国、自治体、事業者に影響力を行使するためには、相手が一目置く理念、政策、技術能力、それも持続的能力を持たねばならないと考え、超少人数ではありますが、それを継続してきました。

 そのためには自分たちの経済、財政的基盤をいかに構築するかと言う至難な課題があります。日本社会では住民団体を支援することだけで、国、自治体などは調査研究、分析業務はじめあらゆる仕事の委託を排除する実態ががあるからです。

 ところで、なぜ、私たちが日本から10000km以上離れているノバスコシア州、ハリファックス市に何度も足を運び議論し、相互講演(今年の春はノバスコシア、ハリファックス側に呼ばれ青山、池田が講演してきました)するなどしてきたか。

 その最大の理由は、バリーさん、ボブさん、レイさんのようなもともと民間のコンサルタント、技術者、NPOのような方々がいたからです。もちろん、すばらしい自然、景色もありますが、最大の要因は「ひと」、それもリスクをいとわず、民間、NPOから完全と州政府に政策提言し、しかも実行したひとがいたからです。

 今回の講演会でもカナダ大使館から環境総合研究所に対して、過分な評価、賛辞をいただき、気恥ずかしさを感じました。前回の講演会はカナダ大使館とウルトラ小規模の環境総合研究所の共催で行いました。なぜ、そんなことが可能なのか? それはカナダという国(州、市町村を含め)そして関係者は、規模の大小や権威ではなく、本当に社会、公共のためのこのひとたちはリスクを顧みずがんばっている、と言う視点で組織やひとを見ているからだと思います。


現在、オンタリオ州ナイアガラで活躍中のバリーさん




2003年8月6日のカナダ大使館と環境総合研究所共催のノバスコシアシンポ

 所沢事件が起きた直後、カナダ大使館の大使から本国の女性の環境資源担当大臣が来日ずるので大使とその大臣を囲んで夕食会をするので来て欲しいと招待状が来ました。夕食会ではひとりひとり日本を代表する企業や組織の代表などが紹介されましたが、そのなかで環境総合研究所を高く評価し紹介されました。

 環境総合研究所と青山貞一の名前がでたとだん、参加した日本人の視線が私に集中しました。当然、あのひとが所沢ダイオキシンの。。。。と言うことだと思います。事件直後と言うこともありました。(これはその後、軽井沢で開催された全国知事軽井沢セミナーに講師で呼ばれたときも同じでした。某知事は「あの人は云々」と大きな声で私を指さしていました。

 私は女性の大臣に、なぜ私たちが農民からの依頼で野菜のダイオキシン分析をしたのか、なぜカナダの会社に頼んだのか、日本の実態はどうなっているのかについて話したところ、女性の大臣はすごく関心をもたれ、日本にもこのような明確なミッションをもった会社(環境総合研究所のこと)があるのか、とおどろかれました。

 自分で言うのも何ですが、日本社会のように権威や組織の規模で安易に評価せず、具体的に何をしているか、どんな能力をもっているか、どれだけリスクを顧みずがんばっているかなどで、ひとや組織を見る、評価してくれるんだと感じました。 

 もし、私たちが所沢の農民のホウレンソウとお茶を分析してあげなければ、あのような大騒ぎは起こらなかったでしょうが、法律も条令もできず、所沢はじめ日本中は劣悪な産廃銀座と化していたことは間違いありません。日本の国、自治体はもとよりメディア、一部住民までもが私たちをバッシングしましたが、一部の友人、NPOとカナダ大使館での大使や大臣、それにトロント郊外で分析を担当してくれたひとびとの激励が、どれだけ私たちのはげましとなったか知れません。

 強い住民の意志や信念を受け、実務としてブレずに最後まで対応してあげる人がいなければ、大きなリスクを伴うこの種の問題はどうにもなりません。

...

カナダとの最初の出会い

 もう25年も前になります。

 韓国系カナダ人が中国で開催された国際都市計画学会の帰途、日本にたち寄られ、日本で実務がわかる研究者と議論がしたいとカナダ大使館に伝えました。

 大使館から私の所(当時はフジテレビのシンクタンクの所長をしていました)に電話が来ました。

 その方、お名前はケン・ベック・リーさんを私の研究所にお呼びし、コンサルタントや専門家の社会的役割について、数時間議論しました。

 リーさんも自身も。さまざまな実務(調査、ソフト開発など)をしており、当時、バンクーバー郊外のサリーと言う自治体に民間から登用され、下水道計画などに関わっていました。

 その後、リーさんはオタワ大学の教員になったり、実務の現場にもどったりしています。カナダという国の行政は、実務にたけた有能な人材をいつでも登用する国だといたく感心しました。米国などに比べると非常に偏見が少ない、人を見る目が非常にフェアであるなと思いました。おそらくその理由は建国の歴史にあると思います。これについては別の機会にお話ししたいと思います。

 以後、青山、池田はカナダと徹底した民間環境交流を開始します。

 最初は、リーさんがカルガリーで開催される国際大気汚染防止関連の国際会議の総会に青山、池田に発表させるべく、大会事務局に要請。大会事務局から講演の招待状が来ました。

 学会では、「日本の大気行政の政策評価」を発表しました。市民、被害者、マスコミ、司法の果たした役割を強調しました。その後、行政がでてきたと。

 国際学会に行く前、リーさんが住まわれているサリー市役所やサリーを視察しました。小さな町でしたが、景観がすばらしいことにおどろかされました。サリー氏ではDECのホストコンピュータに、今で言うGIS(地理情報システム)がインストールされており、行政の各部署がそれにLANでアクセスしていました。25年も前のことです。建築、都市計画、公園、税務などなどあらゆる部署が同じGISにアクセスし情報を共有するだけでなく、市民のさまざまな要望、ニーズに応えていました。

 ※これはGIS関連の論文に書いています。

 リーさんの計らいで何度か、池田さんがバンクーバーで開催された国際会議に参加したり、国際市民参加学会の大会に参加するなど、カナダとの交流が密になって行きました。

 リーさんの職場の同僚の未成年の娘さんがアジア諸国にファッションモデルとしてゆくので、ぜひ里親となって欲しいと言われ、青山、池田が「里親」となりました。一緒に町を歩いていると、誰でもが振り返るほどの娘さんでさまざまなCM、雑誌のカタログにも掲載されていました。

 私たちとカナダの関係を決定づけたのは、いうまでもありません。所沢ダイオキシン問題です。

 所沢ダイオキシン問題で有名となったマクサム社は、現在カナダ随一の規模を誇る民間分析機関となっています。日本でダイオキシン問題がパニック寸前になっていたとき、日本の分析会社で市民、住民、農民、消費者の要望に廉価に対応するものは皆無でした。

 ※現在のマクサム社 トロント郊外にある
http://eritokyo.jp/maxxam/maxxam-org1.html


マクサム社のダイオキシン分析専門ラボの前で筆者


松葉ダイオキシン分析のマクサム側の受け手、ブランコさんと




トロント郊外にあるマクサム社今や世界有数の分析会社に

 私たち環境総合研究所は、何とか日本の談合状態を打ち破り、同時に住民の分析要望に対応するためには、海外の分析機関にお願いするしかないと、アメリカ、ドイツ、カナダなどの化学物質分析機関に英文でお願い文書を出しました。 また、カナダ大使館にも信頼できる機関があれば推薦して欲しいとお願いしたのです。

 その後、私たちの依頼に最初に答えてきたのがカナダのマクサム社でした。私はさっそく池田こみちさんに指示し、オンタリオ州トロントに飛んでもらいました。
 
 マクサム社は単なる優れた技術能力だけでなく、企業の社会的責任(CSR)を強く自覚していました。

 日本では談合が常態化しており、住民が有料で分析会社に依頼しても分析してくれないことが多い、その実情を切々と池田さんが話したところ、「よろこんで協力したい」と会長自らが申し出てくれたのです。

 その後、私も池田さんと一緒にトロントに行き、技術・業務提携を結び、一連の市民向けのダイオキシン分析サービスがはじまります。

 トライアルで何度か土壌や農作物に含まれるダイオキシンを分析してもらった後、例のホウレンソウ、お茶に含まれるダイオキシン分析を行うことになったのです。

 あれこれ、かれこれすでに10年近くなっています。

 この分野は政策コンサルタントの分野ではなく、環境、食品中の化学物質分析の分野ですが、実はそこでもノバスコシア州、ハリファックスで感じたことと同じものを感じました。

 やはり大切なのは、専門家、コンサルタントがもつ明確なミッションであり、、社会的責任感です。さらに、技術を社会・公共のために生かすという精神です。

 アドボカシー的スタンスこそ、今の日本でもっとも無いものです。

 単なるビジネスではなく、自分たちにとって何が大切かについて相互理解、信頼が重要なことを十分に理解知ることだと思います。

 ノバスコシア、ハリファックスと最初にであったとき、彼らにそれを強く感じました。青山、池田はすでにノバスコシア州に5回、カナダには10回以上でかけています。この9月は北半球で日本から一番遠い都市、ニューファンドランド州セント・ジョーンズ市に現地調査を敢行しました。


ペンギン気分の池田こみちさん


ノバスコシア方式の発祥地、世界遺産の町ルナバーグ


魚介でご満悦の廣田次男弁護士



厳寒のもとで行われたノバスコシア州現地予備視察
マイナス20度で何しろ寒かった





生ゴミ入れ、グリーンカートをあけている池田さん
30名(第一回:2003.9)、20名(第二回:2005.9)による現地視察を敢行

 私たちがカナダに見るものは、カナダの希有な自然とともに、真摯で謙虚なカナダの専門家であり政策マンの存在だ。

 これこそ今の日本にとっとも欠けているものではないか。

 自戒の念をこめそう思っている。



毎回週末にでかけたペギー岬


世界遺産の小さな漁港、ルナバーグ