信州廃棄物条例骨子(案)


 以下は、長野県知事から条例制定アドバイザーの依頼を受け、梶山正三弁護士、青山貞一武蔵工業大学教授、北村喜宣上智大学教授の3人が作成支援した信州廃棄物の発生抑制と良好な環境の確保に関する条例(仮称)骨子(案)です。すでに公表し、現在、市町村、県民、県議会議員、事業者などへの説明、質疑をはじめております。

平成16年(2004年)2月27日

信州廃棄物の発生抑制と良好な環境の確保に関する条例(仮称)骨子(案)

理 念

 豊かな自然と数多の清い水源に恵まれた信州は、これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄の経済優先の社会から脱却し、自然との共生、資源の循環を図るなど、環境と経済の両面から社会の持続可能性を探求し、廃棄物に起因する環境負荷の軽減を図らなければならない。そのためには、「できるだけ燃やさない」、「できるだけ埋め立てない」方向への政策の転換が必要である。

 また、 現行の法律や県で定めた要綱・要領だけでは解決できない廃棄物に係る課題に対応するためには、県民の視点に立った県民との協働により、法から一歩踏み込んだ政策を展開することが必要である。

 このため、廃棄物の発生抑制と資源化を推進し、信州の良好な環境を確保することにより、真の循環型社会を形成するための条例を定めるものである。

1 総則

(1)目的

 この条例は、廃棄物の処理に起因する自然環境及び生活環境の破壊及び汚染等の防止を図るため、廃棄物の徹底した発生抑制を実現することにより、廃棄物に起因する環境負荷を最小化し、もって本県の良好で豊かな自然環境を将来にわたって保全するとともに現在及び将来の県民の健康、安全そして快適な生活環境の確保に寄与することを目的とする。

(2)用語の定義

@      廃棄物

 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「法」という。)第2条で定めるもの

A      廃棄物の処理

 収集、運搬、処分及び保管

B      準廃棄物

廃タイヤなど本来の用途を廃されたもので、規則で定めるもの

(3)責務

@      県の責務

a)    事業者及び県民による廃棄物の発生抑制等により、良好な環境を確保するための必要な措置

b)    自ら率先して廃棄物の発生抑制等により、良好な環境を確保するための努力

A      製造事業者の責務

a)    廃棄物の発生抑制等による良好な環境の確保に関する県の施策への協力

b)    製造品が廃棄物になった場合に、環境への負荷ができる限り低減され、かつ、リサイクルが容易な製品の設計に努力

c)     製造物に関する情報の積極的な開示

B       排出事業者の責務

a)    廃棄物の発生抑制等による良好な環境の確保に関する県の施策への協力

b)    自己が排出した廃棄物によって、環境の破壊・汚染を招かないための最大限の努力

C       廃棄物処理業者の責務

a)    廃棄物の発生抑制等による良好な環境の確保に関する県の施策への協力

b)    廃棄物の処理による環境の破壊・汚染を招かないための最大限の努力

c)     廃棄物処理に関する情報の積極的な開示

D       県民の責務

a)            廃棄物の発生抑制等により、良好な環境を確保するための努力

b)            廃棄物の発生抑制等による良好な環境の確保に関する県の施策への協力

2 廃棄物の発生抑制及び資源化に関する計画

(1)廃棄物の発生抑制及び資源化に関する計画の策定

@        知事は、県内における廃棄物の発生を抑制し、及び発生した廃棄物の資源化を促進するため、廃棄物の発生抑制及び資源化に関する計画(以下「発生抑制・資源化計画」という。)を策定する。

A        発生抑制・資源化計画の内容

a)    一般廃棄物及び産業廃棄物の発生量の予測に関する事項

b)    一般廃棄物及び産業廃棄物の発生量の削減目標量及び発生抑制のための具体策に関する事項

c)     一般廃棄物及び産業廃棄物の資源化目標量及び資源化のための具体策に関する事項

d)    事業者責任の強化、協力要請、協定締結に関する事項

e)    一般廃棄物及び産業廃棄物の中間処理及び最終処分量の低減に関する基本方針

f)      一般廃棄物及び産業廃棄物の処理施設計画に関する事項

g)    その他規則で定める事項

B        知事は、発生抑制・資源化計画の策定及び見直しにあたり、廃棄物の発生抑制及び資源化に関する計画策定委員会(以下「計画策定委員会」という。)に諮問し、答申を受ける。

C        見直しは概ね3年毎及び知事が必要があると認めるときに行う。

D        県民は50人以上の同意署名をもって、全体計画(処理施設計画に関する部分を除く。)の見直しを請求することができる。

(2)計画策定委員会による発生抑制・資源化計画案の審議

@       計画策定委員会の会議及び資料は公開し、日程・議題は予め公表する。

A        計画策定委員会の会議において、県民、各種団体代表者等は、議題に関連する事項について、意見書及び関連資料の提出又は意見陳述の申し出ができ、また、計画策定委員会は、申し出に替え、意見書及び資料の提出を請求できる。

B        計画策定委員会は、審議に必要な調査、関係者からの事情聴取や参考人に対して意見陳述を求めることなどができる。

C        計画策定委員会は、廃棄物の処理施設計画の承認又は廃止・変更に関して、事業者、関連市町村の廃棄物処理計画に十分配慮し、資料の提出を求め、意見を聴取する。

D        廃棄物処理施設計画については、景観、環境破壊・環境汚染への配慮、水源地その他立地上の配慮、土地利用計画との整合性、施設集中への配慮、地域住民への配慮、維持管理運営計画への住民参加などの観点の他、一般廃棄物処理施設についてはさらに、必要性、代替性、財政的配慮、既存施設の利用可能性などの観点から審議を行う。

E        知事は、計画策定後公表する。

(3)発生抑制・資源化計画の実行状況の確認・公表と対策

@        計画策定委員会は、毎年度末までに発生抑制・資源化計画で定められた目標の達成度、未達成部分の原因を分析調査し、知事に報告する。

A        知事は、報告を公表し、未達成部分について関連業界等と協議してその対策を講じ、その内容を公表。また、必要に応じ計画策定委員会に計画見直しを諮問する。

(4)計画策定委員会

@       任務は、次のとおり。

a)    発生抑制・資源化計画案の知事の諮問に対する審議、答申

b)    発生抑制・資源化計画の見直し答申及び見直しについての意見具申

c)     目標達成度の調査、進行状況の分析及び知事への報告

d)    その他発生抑制・資源化計画の実現に関して必要な事項についての知事への意見具申、調査及び報告

A       計画策定委員会の人数は15人以内、任期は2年とする。

B       委員は、学識経験者等の中から知事が任命する。

C        専門的事項を検討するため、廃棄物処理施設計画審査部会、環境モニタリング専門部会、その他必要に応じ臨時の専門部会をおくことができる。

3 廃棄物処理施設に関する規定

(1)発生抑制・資源化計画での承認対象施設

@           次に掲げる施設(以下「計画承認対象施設」という。)を設置しようとする者は、法の許可等の手続きに先立ち、発生抑制・資源化計画での承認を得ることが必要。

a)    廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和46年政令第300号。以下「政令」という。)第5条で定める一般廃棄物処理施設

b)    政令第7条で定める産業廃棄物処理施設

A           計画承認対象施設の設置者は、次に掲げる場合、法の許可等の手続きに先立ち、発生抑制・資源化計画であらかじめ承認を得ることが必要。

a)    法第9条の規定による変更許可を要する変更を行う場合。(焼却施設及び最終処分場については、同条の軽微な変更の場合も含む。)ただし、特に不要なものとして規則で定めるものを除く。

b)    法第9条の3の規定による変更の届出を要する変更を行う場合。(焼却施設及び最終処分場については、同条の軽微な変更の場合も含む。)ただし、特に不要なものとして規則で定めるものを除く。

c)     法第15条の2の4の規定による変更許可を要する変更を行う場合。(焼却施設、PCB処理施設及び最終処分場については、同条の軽微な変更の場合も含む。)ただし、特に不要なものとして規則で定めるものを除く。

B           事業者は、計画承認対象施設を設置又は前項で規定する変更をしようとするときは、発生抑制・資源化計画での承認がなければ、当該施設の建設工事に着手してはならない。

C           事業者が前項の規定に違反して建設工事に着手したときは、知事は事業者に対し、工事の停止を勧告することができる。

D           事業者が前項の勧告に従わないときは、知事はその旨を公表することができる。

E           事業者が前項に規定する公表の後も当該建設工事を継続するときは、知事は事業者(市町村を除く。)に対して、工事の停止を命ずることができる。

F           発生抑制・資源化計画で承認された施設であっても、許可申請段階等で施設の規模を拡大する計画変更が生じた場合は、再度計画の承認を得ることが必要。

(2)届出対象施設

@   次に掲げる施設(以下「届出対象施設」という。)を設置又は変更しようとするときは、知事に届出が必要。

@)産業廃棄物処理施設

a)    産業廃棄物処分業の用に供する施設

b)    産業廃棄物収集運搬業に伴う積替保管施設

c)     工作物の新築、改築又は除去に伴って発生する廃棄物の自社処理の用に供する施設

A)準廃棄物処理施設

a)    準廃棄物の処分業の用に供する施設

b)    準廃棄物の収集運搬業に伴う積替保管施設

c)     工作物の新築、改築又は除去に伴って発生する準廃棄物の自社処理の用に供する施設

d)    事業所に設置する準廃棄物を焼却する施設(処理能力50kg/h以上又は火床面積0.5u以上のもの)

A   知事は、届出受理後30日以内に計画の変更等の勧告又は不勧告通知をする。

B   事業者は、前項の期間を過ぎるまでは、工事に着手してはならない。ただし、不勧告通知のあったときは、この限りではない。

(3)環境モニタリング

@      県民及び県民環境協議会は、廃棄物の処理施設又は産業廃棄物の不法投棄その他規則で定める現場の周辺環境について、知事に対し環境モニタリングを請求できる。

A      上記処理施設には、操業中のものの他、焼却炉又は最終処分場などで操業停止あるいは廃止後でも環境モニタリングの必要性のあるものも含む。

B      知事は、環境モニタリングの必要性について、計画策定委員会の環境モニタリング専門部会に諮問する。

C      環境モニタリング専門部会は、予備調査を実施し、また、請求者及び事業者の意見を聞いた上で、知事に答申する。 

D      知事は、答申を受けて環境モニタリングの実施の有無を決定し、実施する場合は方法書案を作成、縦覧する。

E      環境モニタリングの実施にあたっては、県及び請求者がクロスチェックを行わなければならない。また、これに加えて事業者がクロスチェックを行うこともできる。

F      請求者及び事業者が行うクロスチェックに対して、県は一部費用負担することができる。

G      知事は、環境モニタリングの実施後、実施結果報告書を縦覧する。

H      知事は、対応の必要性等について環境モニタリング専門部会に諮問し、その答申を受け、必要と認めるときは、事業者に対して必要な措置をとる。ただし、実施結果から直ちに措置が必要と判断できる場合は、この限りではない。

4 廃棄物の資源化、処理等の業務に関する規定

(1)多量排出事業者の減量その他処理に関する計画

 前年度の発生量が500トン以上である事業者は、当該事業場に係る産業廃棄物の減量その他処理に関する計画を作成の上、知事に提出し、実施状況を報告する。

(2)不法投棄等における産業廃棄物の排出事業者に対する勧告・公表・命令

@      排出事業者が処理を委託した業者が当該受託産業廃棄物に関し、不法投棄又は不適正処理を行ったときは、知事は排出事業者に対し、期限を定めて当該状態の是正を勧告することができる。

A      知事は、前項の規定による勧告をした場合において、勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。

B      知事は、前項に規定する公表の後も当該勧告に従わないときは、勧告を受けた者に対して原状の回復その他環境に対する支障の除去を命ずることができる。

(3)土地所有者等の責務

@      県内の土地の所有者、占有者又は管理者(以下「土地所有者等」という。)は、産業廃棄物の不適正な処理が行われないよう適正な管理に努める。

A      当該土地において、不法投棄又は不適正処理が行われたことを知ったときは、その旨を知事に報告するとともに、これらの行為の継続を防止するため、土地所有者が行うことのできる措置を講ずる。

(4)保管基準

知事は、生活環境の保全上必要と認められるときは、規則により構造耐力上安全な囲いの設置など、産業廃棄物(準廃棄物を含む。)の保管基準を定めることができる。

(5)不適正処理関与者の公表

知事は、行政処分を行ったときは、処分を行った者の氏名、処分内容、処分理由、根拠条文等を公表する。

(6)準廃棄物取扱業者

@      準廃棄物の収集又は運搬、保管及び処分を業として行おうとする者は、あらかじめ知事に届け出なければならない。

A      準廃棄物の処理基準は、法第12条で規定する産業廃棄物処理基準に準じる。

(7)        自社処理への対処

@      産業廃棄物の自社処理を行う場合、一定の事業者は、毎年、知事に保管場所、使用施設、処理見込み量などの届出及び実績報告が必要。

(8)        解体工事届出制度

@      建築物の解体工事(工事対象床面積が80u以上のものに限る。)の発注者・受注者又は自主施工者は、工事に着手する14日前までに次に掲げる事項を知事に届け出なければならない。

a)   解体建築物等の構造

b)   工事着手の時期及び工程の概要

c)    解体により発生した産業廃棄物が最終処分されるまでの処理方法

d)   その他規則で定める事項

A      前項の届出には、解体により発生した産業廃棄物の処理業者、処理方法、処理を行う場所等が確認できる契約書等の書類を添付しなければならない。

B      知事は、届出があった場合、14日以内に限り届出事項の変更その他必要な措置を命ずることができる。

5 県民環境協議会

(1)設置

知事は、廃棄物及びその処理に伴う環境影響等の監視を行い、良好な環境の確保に努めるため、県民の参加による県民環境協議会(以下、「協議会」という。)を設置する。

(2)目的

下記の任務を行い、長野県内全般及び地域の良好な環境の確保に努めることを目的とする。

(3)    任務

@      県内での産業廃棄物の収集、運搬あるいは産業廃棄物処理施設及び一般廃棄物処理施設の建設、改修、運用に伴い生ずる環境変化、環境影響、環境・健康被害等の予備的調査並びに監視活動

A      県内における廃棄物の不法投棄及び不適正処理の監視活動

B      知事に対する行政権限発動請求

C      知事に対する環境モニタリングの請求

D      環境学習、環境測定、政策提言などの自主的活動

E      その他協議会独自の自主活動

(4)組織

@      委員は100人以内とする。 

A      委員は一定の要件を満たす団体及び個人から、知事が認定する。応募が多い場合は、別途定める方法により選定を行う。

B      団体は、全県的な活動をするもの及び地域的な活動をするものそれぞれを認定する。

C      認定された団体については、その団体が推薦する者1名を協議会に出席させる。その推薦者の交代は自由とする。

(5)県の支援

@      協議会において、専門家等の派遣が必要な場合、県は予算の範囲内でその費用を補助する。

6 行政権限発動請求権

(1)     県民及び県民環境協議会は、廃棄物の適正な処理を確保するために必要な措置がとられていないと認めるときは、知事に対して、適切な権限行使による措置を講ずべきことを請求できる。

(2)     請求の対象となる知事の権限は、法に基づく改善命令、措置命令、使用停止命令、立入検査及びこの条例に基づく権限とする。

(3)     請求にあたっては、請求する理由を明示する書類を添付しなければならない。

(4)     知事は、請求があったときは、措置を講じない理由がある場合を除き、必要な措置を行う。

(5)     措置を行う必要がないとき、又は当該申出の規制措置以外の措置を講ずることが適当なときは、知事は、請求者に対し、請求のあった日から30日以内に、理由を付してその旨を通知し、公表する。

(6)     知事は、措置を講じたときは、その旨を請求者に対して通知し、公表する。

7 違法活動通報制度

(1)     廃棄物の処理に関わった者又は廃棄物処理の際に土地を使用させた者は、不適正処理が行われ、又はそのおそれがあることを知ったときは、知事等に対しその状況を報告しなければならない。

(2)     使用者は、その従業者が(1)の行為を行った場合、これを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

8 罰則規定

行政処分違反、届出義務違反、虚偽記載などに対し規定する。

9 附則

(1)施行日

公布後、必要な周知期間をとった上で施行する。

(2)経過措置

  この条例の施行にあたり、必要なものは経過措置を定める。

(3)長野市の取扱い

長野市の区域については、「発生抑制・資源化計画」に関する規定以外は適用しない。

今後検討を要するもの

       廃棄物処理施設新設における公的関与

       情報公開の拡大